2012年9月13日木曜日
"Long long before"に込められた思い
2011年12月、清水真砂子さんの講演会に行った。
そこで、とても心に残ったのは、
南アメリカの民話を再話した「空にのこったおばあさん」を訳した話だ。
(初版は1970年。絶版となっている)
この民話は、どれも“Long, long before”で始まる。
「なぜ?」と思ったそうだ。
おとぎ話でよくある始まりは、Long, long agoだ。
「なぜ、beforeなの?」と立ち止まった。
日本語だと、どちらも「むかし、むかし」かもしれないが
英語には大きな違いがある。
agoは、現在を基準に、beforeは、過去のある時を基準にしている点だ。
この“before”がどうしても気になり、南アメリカの歴史を紐解いたのだという。
すると、白人に支配された南アメリカの国々が独立をするようになると
先住民の死亡率が上がったことが分かったのだそうだ。
支配を受けていた際も、先住民たちは白人からひどいことをされてきたが、
ある程度、支配する国からの監視があった。
しかし、独立すると、その監視の目がなくなり先住民らは、
かつてないほど無残な仕打ちを受けるようになる。
その国にとっての「独立」は先住民には決して喜ぶべきことではなかった。
それなのに、「独立すること」が無条件にいいことだと思っていた自分が
なんて浅かったのだろうかと、清水さんは言う。
小中高、大学と勉強をしてきて、一体何を学んだのか、
誰の立場で学んできたのかと、考えさられたという。
beforeとは、白人による支配された時を基準に
「むかし」であるが、
その国が独立してからは、以前に増してつらい思いをしてきた。
「先住民たちがbeforeに込めた意味を受け止めなければ
この民話は訳せないと思いました」
どんなお話なのだろうか。
その思いがどんな物語で語られるのだろう。
これは絶対に読まなくてはと思い、図書館で借りた。
書庫から出てきた本は、びっくりするぐらいボロボロだった。
久しぶりに、こんな汚い本を見たわ。
ちょっと触るのをためらうんだけど。
しかし、1ページめくれば、そんなことも忘れてしまうほどだった。
なんとも明るく愉快なお話が詰まっている。
素晴らしい本だった。
「むかし、むかし」あるいは「ずっと、むかし」で始まると、
ギクっとした。
登録:
コメントの投稿 (Atom)
0 件のコメント:
コメントを投稿