2012年9月28日金曜日

感動的な1ページ

私は、心が狭いのかもしれない。
献辞は内輪ネタっぽくて、あまり好きではない。
わざわざ貴重なページを割いてさ、
メディアを使わず当事者間で直接やってよ、と思ってしまう。

「親愛なるマイクヘ」くらいなら、書いてあってもいいけれど、
それでも「マイクって誰なん?」と若干ストレスである。
訳者あとがきなども然り。
後半に差し掛かり、誰々さん、ありがとう、誰々さん、お世話になりました
というのが続くと、もう読む気がうせる。

しかし、岩波少年文庫から出ている、ナルニア国ものがたりシリーズの第1話「ライオンと魔女」は思わず感情移入をしてしまった。衝撃的だった。

控えめで温かい眼差しの献辞。
目に涙がたまった。
こんなに心を奪われたのは初めてだ。

2012年9月27日木曜日

学校では教えてくれないこと

それは、下ネタである。



シモの話は、人類の共有事項であり、決して避けて通れないトピックでありながら、
学校では一度も触れられたことがない。
あきらかに、その手の内容を避けて授業を組んでいる。

いや、別に、卑猥なのが好きってわけじゃアないんですよ。
でも、私が見る映画やドラマは、放送禁止まではいかない程度の下ネタが頻出である。

エロに対応できなければ仕事の幅がせまくなるのではないか? 
そこで、いざという時のために、ネタ帳をつけている。
このノートを落とした日には、人格を疑われそうで怖い。


ERより。

突然3週間の休暇を取り、復帰したケリーに対し、
皮肉を言ったロマノのセリフ。
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You might want to try Papua New Guinea next time.

次は太平洋の秘境がいい

I hear they put gourds on their penises.
Give some notice next time.

ペニス自慢の島とかな
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パプアニューギニアって、どんな民族衣装だったっけ?

アレを自慢してましたっけ?

「パプアニューギニア 民族衣装」で画像検索。
















んんんー、カメラさん、もうちょっと、下、下。

















あれれ?隠しているではないか。
むしろ、力が入っているのは、顔のペイントと、髪飾りである。

そうですか。
もっと具体的に検索しないとだめですか?

では、あまり気が進まないが、
「パプアニューギニア ペニス」で画像検索すると…

あ・よく分かりました。もう十分です。
「コテカ」と呼ぶんですね。

でもって、原文のハコは、
 “I hear they put gourds on their penises.
Give some notice next time.”
である。
字数制限を考えると、2文目の「次は知らせろ」なんてのは断然カットである。
 しかし、それでも
(1)「gourds(ひょうたん)をペニスにかぶせてるらしいな」の意味を伝えつつ
(2)ひょうたんが、いささか大きすぎる、あの画像検索の様子を浮かべてもらう
ような表現をするのは、なんと難しいことだろう。

 「ペニス自慢」は、なるほど、と思った。
 
ひょうたんの下は、実はブカブカでしょうから(笑)
男性であることの「強調」であって、
ペニス自体を「自慢」しているわけではないだろう。

しかし、そこを「自慢」と言い切ると、
「どーだ。どーだ!」って感じがして、何だかバカっぽい。
それが相手を侮辱するスパイスになり、いい訳だと思った。


2012年9月25日火曜日

キーワードから考える

このブログにどんな検索キーワードでたどり着いたのかを見てみた。
最近の上位5位はこんな感じだった。

日本映像翻訳アカデミー
翻訳
翻訳者
映像テクノアカデミア
フリーランス

学校の情報を求める人が多いのか。みんな悩むんだなあ。

学校について知りたいのなら、その学校のHPを見ればよい。
でも、よい側面しか書いていないから不安なのだろう。
第三者の意見としての修了生の感想はあるものの
結局、同じ枠組みの中だと、学校側の宣伝に見えてしまうのかもしれない。

情報なんて探せばいくらでも出てくるもの。
溢れる情報の中で、自分が何を信じるかが、
その人にとっての真実ではないだろうか。
頼りになるのは、自分の目と直感だ。
説明会や見学など足を運ぶのが一番だ。

さて、上位5位は、割と一般的なキーワードだったが、
結構、変なキーワードでヒットしてくるようだ。

「誰も傷つかない嘘」
こんな意味深なキーワードで一体何を検索していたのだろうか。
何かよからぬことを考えていたのかな。

「旦那が翻訳者に」
え・だめですか?
夫が「会社、辞める」とか言い出して、将来が不安になった主婦の方ですか?

「翻訳者 ワーキングプア」
暗いわ!
先行き不安になるじゃないですか。
そりゃ主婦も検索するわ。

「翻訳者 ワープア 」
ワープアって、略さないで。
そして、ヒットしないで。

「闇金日記」
いいえ、違います。
人聞きが悪いですね。
翻訳のブログです。
真っ当な道を歩みたく存じます。

「映画祭のトライアルさえ落ちる」
不吉なことでヒットしないでほしい。
 「さえ」ってのが、余計に寂しさを覚える。

「トライアル 不合格」
ああ、痛いとこ突かれたわ。
確かに、落ちております。
真摯に受け止め、精進する所存でございます。

「合格」でたくさんヒットするよう
次回のトライアルは、がんばろう!

2012年9月23日日曜日

自分と向き合うきっかけ

夏に名刺を作った。

どんな雰囲気にしよう?
ざらっとした質感の紙に
ぎゅっと押した活版印刷にしたいな、とだけ決まっていた。

フォントサイズ、インクの色、肩書き、レイアウト・・・
いざ、作ろうと思うと、本当に悩んだ。
 
カッコイイ名刺 まとめ
http://stocklogos.com/topic/ultimate-creative-business-cards-collection

歯医者さんが、歯をモチーフにしたり、
離婚弁護士の名刺が、真ん中にミシン目が入っていて、破れるようになっていたり
工夫があって、面白い。

「ああ、この人、翻訳するんだね、ふふふー」って
渡した人の口角が15度くらい上がるような名刺にしたいと思ったのだが、
ビジュアルで訴えるものが思い浮かばなかった。

マークになるような専門的なジャンルも持っていない。
それなら、一般的に翻訳で使う道具はと考えてみた。
電子辞書、パソコン、本・・・
どれもシンボルとして冴えない。
納品するものはデータだから無機質だ。
よし、それなら文字で勝負だ、と思い、最終的にお願いしたのは、こちら。

中村活字 - 活版印刷のお店では有名店らしい。
http://www.nakamura-katsuji.com/

名刺は看板である。
どんな看板で自分を表現するのか。
「自分」は何をアピールしたいのか、
「自分」って何だろうかと考えるきっかけになった。



その他、検討したお店
ウィングド・ウィール - 小ロットで手軽なものもある。
30枚 片面 3500円 50枚なら4,500円    
http://www.winged-wheel.co.jp/shop3.asp?syubetu=1&big=3&middle=2

オールライト工房 ー センスがいい。次回はここでデザインを頼みたいな。
http://www.allrightkoubou.com/

2012年9月22日土曜日

Tokyo Art Book Fair 2012

Tokyo Art Book Fair 2012に行ってきた。
http://zinesmate.org/


会期:
9 月21 日(金)16:00〜21:00 レセプション・パーティー(どなたでも参加できます)
9 月22 日(土)11:00〜19:00
9 月23 日(日)11:00〜18:00
会場:京都造形芸術大学・東北芸術工科大学 外苑キャンパス
東京都港区北青山1-7-15
入場料:無料

アートブックの見本市。
イラストレーターや写真家、印刷会社、紙の販売会社など一同に会している。
あまり本屋で見かけないようなマニアックな本が集まって面白い。

単に楽しそうだからと、レセプションパーティーに足を運んだのだが
実はもう一つの理由があった。

翻訳の営業である。
面白い本を作っている人や、映像を作っている人と
知り合いたくても、私の普段の仕事ではつながることができない。
こんな出会いの場を逃してはもったいない。

名刺を渡して、翻訳やってます、と宣伝しておこう。
ま・それが直結するとは限らないけれど、種をまくのは大事なことだ。

あるブースで、ものすごく、アホらしいエロ本を作っている人に会った。
腹を抱えて笑った。

そこには英語の2,3ワードのキャプションがあって、
「一応ね、英語にも対応しているんです」と言っていた。

私は名刺を渡して、翻訳をしているので
何かあればお声かけてくださいと言った。

すると、彼は
「実は、映像をとっているんですが、
そういうのもやってますか?」
という。

はい、字幕書きます、と私は答えた。

では、いつかぜひ、と別れた。

彼はユーチューブに映像を載せているというので
家に帰って見てみたら、アホらしくて笑った。

仕事につながったら、いいな。

2012年9月20日木曜日

橋を渡せたかな?

先日、共訳で字幕を書いた映画を観に行った。

やや見えづらい前方の席は、すかすかだったが、
中ごろから後ろの席は埋まっている。
これだけの人々と、この映画の橋渡しをするんだなと思うと緊張した。

翻訳の質がいいからといって原作がそれ以上に良くなるわけではない。
でも、翻訳は完成された原作を最後に殺すことができるものだ。

映画が終わり、一瞬画面が黒くなり、クレジットが流れ始める。
すると、会場から拍手が沸いて、びっくりした。

映画、楽しかったんだな、
伝わったんだなと思うと、うれしかった。

翻訳は地味な仕事である。
でも、いいなと じわじわ思った。

2012年9月19日水曜日

トライアルに応募

翻訳会社のトライアルを受けた。

素材は、映画から8分間の抜き。
sbdファイルで納品。
ハコ切りからの作業で、字幕枚数は136枚となった。
納期は2週間。

この会社は、未経験は応募できない。
私は映画祭で関わった作品2本を書いた。
1本すべてを担当していたわけではないので
全体の枚数のうち、何枚を担当と記載。

それぞれ10分程度の字幕制作を経験として認め、
トライアルを受けさせてくれるか不安だったが
素材が送られてきてほっとした。

私は、改めて学校に通って
よかったなと思った。
もちろん、講師や授業がよかったのもある。

でも、それ以上にありがたいと思うのは、
学校経由で映画祭などに関わることができたことだ。
今回は、履歴書に実績を書けたおかげで、
トライアルへの応募ができた。

結果は2週間以内だそうだ。
どうなることやら。

2012年9月17日月曜日

小さな成長

学校に通っていた時からずっと不安だったのは
初稿を仕上げるスピードだ。
まずは、たたき台を書き上げなければ話にならない。

先生は誰もが口をそろえて
「そのうち早くなります」
と言う。

そのうちって、一体いつなのか?
全く実感できないまま、実践コースを終えた。

映画祭の字幕制作を終えて、
とある制作会社のトライアルを受けた。
その時、第一稿を訳出するスピードが速くなったと初めて感じた。

学校を離れた今、自分の成長や成果を測るのが
難しい中、小さな進歩を感じられるのはうれしい。

2012年9月15日土曜日

そこにマットはあるか

学校の講義では
原文に引きずられないように、
全体の流れを意識するように、と指導される。

私は、少し原文から離れて飛び降りると、
いつも着地点がずれていて、痛い目にあっていた。
それで、臆病になっていた。

しかし、今回は、とあるトライアルで、
思い切ってみた箇所がある。
そこに受け止めてくれるマットはないかもしれない。
でも、あると信じて飛び降りた。

軍事政権下、市民は民主化を強く求め立ち上がる、というくだりの後に続く字幕。

”But the generals wanted it differently.”

字面だけ読むと、
「しかし、軍事政権が望んだものは違っていた」。

Differentlyをどう表現したらいいだろう。
比較対象を明示せず「違っていた」と言われると、
何とだっけ?とやや消化不良になる。

要は、「政府は民主主義を望んでいなかった」ことを
言いたいのだが、文字数は10文字しかない。

後に続くのは、政府による弾圧の話。
該当する箇所は、その前振り。

民衆と政府の対比が出ればいいかなと悩んだ結果、
「政府と民衆は衝突した」
とした。

初めて、原文から自由になれた気がした。
これまで、こんなに、ハコの字面の情報と字幕を
乖離させたことはなかった。

トライアルは通ったので、
おそらく許容範囲内だったのだろう。

自分はいいと思っている。
でも、そう思わない人がいるかもしれない。
今後も、そんな不安と、ずっと付き合っていくのだろう。

2012年9月13日木曜日

"Long long before"に込められた思い


2011年12月、清水真砂子さんの講演会に行った。
そこで、とても心に残ったのは、
南アメリカの民話を再話した「空にのこったおばあさん」を訳した話だ。
(初版は1970年。絶版となっている)

この民話は、どれも“Long, long before”で始まる。
「なぜ?」と思ったそうだ。
おとぎ話でよくある始まりは、Long, long agoだ。
「なぜ、beforeなの?」と立ち止まった。

日本語だと、どちらも「むかし、むかし」かもしれないが
英語には大きな違いがある。
agoは、現在を基準に、beforeは、過去のある時を基準にしている点だ。

この“before”がどうしても気になり、南アメリカの歴史を紐解いたのだという。
すると、白人に支配された南アメリカの国々が独立をするようになると
先住民の死亡率が上がったことが分かったのだそうだ。

支配を受けていた際も、先住民たちは白人からひどいことをされてきたが、
ある程度、支配する国からの監視があった。
しかし、独立すると、その監視の目がなくなり先住民らは、
かつてないほど無残な仕打ちを受けるようになる。
その国にとっての「独立」は先住民には決して喜ぶべきことではなかった。

それなのに、「独立すること」が無条件にいいことだと思っていた自分が
なんて浅かったのだろうかと、清水さんは言う。
小中高、大学と勉強をしてきて、一体何を学んだのか、
誰の立場で学んできたのかと、考えさられたという。

beforeとは、白人による支配された時を基準に
「むかし」であるが、
その国が独立してからは、以前に増してつらい思いをしてきた。

「先住民たちがbeforeに込めた意味を受け止めなければ
この民話は訳せないと思いました」

どんなお話なのだろうか。
その思いがどんな物語で語られるのだろう。
これは絶対に読まなくてはと思い、図書館で借りた。

書庫から出てきた本は、びっくりするぐらいボロボロだった。
久しぶりに、こんな汚い本を見たわ。
ちょっと触るのをためらうんだけど。
しかし、1ページめくれば、そんなことも忘れてしまうほどだった。

なんとも明るく愉快なお話が詰まっている。

素晴らしい本だった。

「むかし、むかし」あるいは「ずっと、むかし」で始まると、
ギクっとした。

2012年9月11日火曜日

どうせ見えない

翻訳学校の近くの喫茶店で
サンドイッチを食べていた。
私の隣の席は、空いている。
その向こうに、女性2人が座った。

彼女らの会話が聞こえてくる。
トライアルの話などをしていた。
どうも同じ学校に通っているらしい。
そして、トライアルにはまだ合格していない。
年は30歳前後かな。

トライアルや学校の課題は
空き時間を費やして翻訳をする。
これが仕事だったらいいけどね
結局「課題」でしかない、などと話している。

その気持ちすごく分かるわ。

それに、合格しても
すっごい時間かけて、『これだけ?』って金額だし
そりゃ好きでやってるけど、現実問題として
食べていけないよね、という。

それは、私も不安である。
貧乏には慣れている方ではあるが。

そして、1人が言った。

「30過ぎても、仕事につながらなかったらー、
わたし、やめちゃうかもー。だって、むなしいもん」
「うんー、そうだよねー」

おお、そうかい。やめてまえ。

私は、30過ぎてから、始めているんですが…
そして、相変わらず先は見えずにいる。

サンドイッチを食べながら、ぼんやり考えていた。

でも仕方がない。
霊媒師じゃないんだし、凡人に先は見えないものである。


2012年9月9日日曜日

Rabbit test  ウサギを…

「遅れてるの」
子供が出来てはいけない関係にあるカップルの場合、
男性に冷や汗をかかせる言葉である。

互いに既婚の男女が関係を持ち
その数日後、女が生理が来ないことを打ち明ける。
そこで男が言った台詞。

Have you had a rabbit test?

字幕:
検査は?

(マッドメン シーズン4より)


“rabbit test” って妊娠検査薬の商品名かなと
調べてみて、ぎょっとした。
文字通り、ウサギを使う検査のことだった。

検査したい人の尿を、ウサギの耳の静脈に注射。
48時間後に、ウサギの卵巣に排卵が起こっていれば
その人は妊娠しているのだという。
フリードマン反応というらしい。

ここまで知り、へええと思った。

でも、ウサギの排卵を調べるには?
ウサギの尿で?

卵巣を確かめるには腹を開く。
つまり殺すということ。

でも、後には、検査が進化して、遠隔で排卵を確認できるようになったらしい。
http://www.wisegeek.com/what-is-the-rabbit-test.htm

日本でも産婦人科には、ウサギがスタンバイしていたのだとか。

しかも、市立芦屋病院の広報誌によると、
http://www.ashiya-hosp.com/kouhou_hope/kiji/19.html

“昔は検査や研究に使ったウサギは研究室でナベにしたとかですが、
昭和40年代には、さすがにそのようなことはありませんでした”

ウ・ウサギ鍋・・・

今は、妊娠検査キットが、数百円で薬局で買える。
ありがたいものである。

2012年9月7日金曜日

ドキュメンタリー「ラン フォー ライフ」

第7回UNHCR難民映画祭 
「ラン フォー ライフ ~セルビアのエチオピア人ランナー~」



 3人のエチオピア人ランナーがセルビアに亡命し

市民権取得を目指す姿を追ったドキュメンタリー。

明るいシーンで厳しい現実をふと忘れてしまっているところに
めりめりと亀裂が入り、どきっとした。

ケンカの仲裁をしたり、叱咤激励をしたり、
頼れるアニキのような監督。
彼らのその後をいつか撮ってほしい。



NHK BSで放送された際は、ボイスオーバーと字幕の組み合わせだが
今回は映画祭のために、新たに字幕版を制作している。

難民映画祭 公式サイト
http://unhcr.refugeefilm.org/2012/title/2012/08/post-48.php
 
NHK BS 世界のドキュメンタリー
前編
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/110323.html
後編
http://www.nhk.or.jp/wdoc/backnumber/detail/110324.html


2012年9月5日水曜日

映画「キス・ミー」

第21回東京国際レズビアン&ゲイ映画祭上映作品
 「キス・ミー」



村上春樹がどこかで、恋ができるのは21歳までだと書いていたのを思い出した。
人は年を取ると、結婚や、生活、世間体にとらわれ、時にただ好きだからといって、
突っ走ることはできなくなる。理屈で考えた時点で、もはや純粋な恋ではないのかもしれない。


21歳じゃなくたって、人は恋に落ちる。

純粋な恋の物語。
映像が美しく、音楽が素敵な映画。


 上映日 

16(日)   16:25



 17(月・祝) 11:45

場所
スパイラルホール

映画際 公式サイトへのリンク
http://tokyo-lgff.org/2012/

2012年9月4日火曜日

映画祭の翻訳の話 6:意見の衝突


人が集まれば、意見はぶつかるものである。
翻訳は「答え」が1つに決まらないが
チームの答えは1つにしなくてはならない。

「僕」なのか「俺」なのか、
「母さん」と呼ばせるか「ママ」なのか。
特定の相手に対し、敬語を使わせるか否か。

これらに対し、公式な答えなどない。
誰もが自分の中に持っているものだ。
それが衝突する場合、どちらを優先するのか、
これをオンライン上で決着をつけるのは難しい。

特に文字数にも影響する場合は、
早い段階で決着をつけなくてはならない。
かといって、単純に、二者択一を多数決で決めてしまうのは、危険である。

なぜ自分がそう思うのか、その理由をお互いに交換しあわないと意味がない。
感覚的に、「いや、原音もママと聞こえるし、何となくママの方がいいんじゃないか」と思っても
それで相手は納得せず、意見はまとまらず、先に進まない。

こんな性格なので、母さんだ、という意見に反論するためには
いや、のちにこんな発言をし、こんな一面を持つ人なので、
ママが良いと思う、と論理で攻めないと負けてしまう。
(まぁ、勝ち負けの問題ではないのだが・・・)

決定的なセリフはどこだろう。
立ち止まって、いろいろ考える。
結果として、自分が直感的に支持した方に決定したとしても
時間をかけて、なぜそう思ったのかを突き詰め、言葉にすることで
しっかりした確信が持てるようになる。
人の意見で、はっと思うこともあった。

意見が分かれるのは、原文と向き合うチャンスだなと思った。

2012年9月3日月曜日

映画際の翻訳の話 5:表記の大切さ

学校の授業では、書式や表記について何度も指導があった。
今回、共訳して、その大切さがよく分かった。

互いの訳をチェックし合う。
6000-8000ワードの英語と、
1000枚を超える字幕を1日半ほどで読み、
コメントをする。

その目的は、解釈や言葉選びについて、その人が違和感があったのかが聞くことだ。

NHKなり朝日新聞なり、指定された漢字が使えるかどうかは
誰かに聞かなくても用語集をあたれば済むこと。
字幅や制限文字数の乖離もしかり。
「あれ、この漢字って、使えるっけ?」とチェックするのも
手間がかかる。面倒くさいものだ。
スケジュールが詰まっている中で、表記のことに
時間を割くのは、もったいない。

使えない漢字を指摘された。
他人の時間を奪ってしまったようで
非常に申し訳ない気持ちになった。

NHKの漢字表記では、
時間が経つにつれ の「経つ」は「たつ」。

~過ぎるは、動詞+過ぎるは漢字、形容詞+すぎるは、かな。
飲み過ぎた ○  飲みすぎた X
甘すぎる ○  甘過ぎる X 
 
漢字にもっと敏感にならなくてはと反省した。

2012年9月2日日曜日

映画祭の翻訳の話 4:字幕に励まされる

第一稿までの作業期間は、ドキュメンタリー、ドラマともに1週間。
締め切り日は、3日ずれていた。
ドキュメンタリーの3日後、追いかけるようにドラマの提出日がやってくる。
ハコを切ったら、ドキュメンタリー153枚、ドラマは151枚。
 
字幕を数えるときは、一度に画面に表示するごとに“枚”と数える。
「なーんだ、それじゃ、400字詰め原稿用紙と比べたら、
たいしたことないじゃないか」と思うかもしれない。
でも、2秒程度で消えてしまう、たった1枚、8文字の言葉を出すのに、
背景を調べ、言葉を選び、文字数を合わせる。
そりゃア、しんどいのであります。

学校の授業では多くて大体80-100枚/5日間くらいだったか。
トライアルでは、70枚いかないほどだ。
その3倍強の量を目の前に、おなかが痛くなりそうだった。

そんな時、ドキュメンタリーの原文のくだりに励まされた。
難民となったエチオピア人が亡命先のセルビアで
自分自身について語るシーン。

We do not usually complain. It is partly in our culture. 

"僕たちには愚痴を
言わない文化がある"

We sometimes say ‘there is no problem’  even when we are facing some.

"苦しい時も“大丈夫”と
言って めげない"

  When there is no solution  to your problem, there is no point to complain.

"だって解決法がなけりゃ
不平を言ってもムダさ"

(ラン フォー ライフ ~セルビアのエチオピア人ランナー~ より)
http://unhcr.refugeefilm.org/2012/title/2012/08/post-48.php


ああ、どうしようなどと考えている時間はムダである。
解決法はない。
ただ書くのみ。
「大丈夫」と、ひたすら最後の1枚を目指した。

2012年9月1日土曜日

映画祭の翻訳の話 3:初めての‘ノマドワーク’

字幕制作は初めてで、しかも2本同時に進行し、
片方ではリーダー役を頼まれ、SSTはまだ届かない。
さらに、作業期間の盆休みは、5日間夫の実家に帰省する予定があった。

今年の正月は帰っていない。
「盆は帰ります」と、新幹線のチケットをとっていた。

盆休みに入る前に、会社を2日休んで
なんとか初稿を仕上げる目処は立てた。
でも、帰省しても、2稿の提出と互いのチェックがあるので
結局ずっと字幕とにらめっこしなくてはならない。

私は「帰らない」と言ったが、夫は「家でやればいい」と言い
議論は平行線。

夫の実家で、嫁は何もせず、ずっとパソコンなんてどうかと思う。
でも、たった年に2回の帰省だ。私だけ帰らないのは、確かに感じが悪い。

私は東京に残り、独り家で仕事していようかと前日まで悩んだ。
結局、ノートPCをぷちぷちで包み、新幹線に乗った。

墓参りをしたり、美術館に行ったりもした。
でも何だか落ち着かなかった。
キッチンで作業し、実家の会社でプリンターやLANを借りて、
何とか第2稿提出とレビューは乗り切った。
移動の新幹線や飛行機では、原稿の赤入れをした。

翻訳は、作業によっては場所を選ばない。
「ノマド」とか言って、カフェで仕事する人が、かっこいいような風潮があるけれど
仕事するなら、私はやっぱり、自宅の自分の椅子がいいかな。