私は学校やその付属のエージェントの基準しか知らない。
制作会社で字幕原稿をチェックする際、戸惑うことがあった。
中でも一番びっくりしたのは、
「誤字脱字以外はチェックしなくてよい」と
引き継ぎの際、言われたことである。
翻訳者にチェックバックを送ろうとまとめたコメントで
二通りに読める字幕や
つながりが分かりにくい個所、
日本語の造語の不自然さを指摘しても、
「まあ、意味が分かればOK」と前任者にカットされた。
「それに、考えれば分かる」と言う。
考えさせるような字幕は最低である。
一瞬思考が止まれば、読み切れないし
次の字幕も飛んでしまう。
「翻訳者に嫌われたくない」
前任者の理由はこれだった。
細かい指摘をすると嫌がられるかもしれない。
高いレートでもないのに短納期でやってもらっている。逃げられたら困る。
また、細かいところまでつめていく時間がないといったものだった。
自分の間違いや足りなかった部分を指摘されたからといって
会社を「嫌う」翻訳者がどこにいるだろう。
そんな人はプロとして、個人事業主としてやっていけるわけがない。
翻訳者の意図は大切にしたい。
そこを塗り替えようとは思わない。
翻訳者は、その作品を一番理解している人なのだから。
チェックする基準は、その字幕で意図が伝わるか否かだと思っている。
前任者が辞め、チェックのチェックをされることもなり
ここは直した方がいいと思う個所は心おきなく指摘している。
大先輩に向かって物申すのは生意気かもしれないが、
原稿がすべてであり、そこに上も下もない。
制作会社が翻訳者に対して弱腰になり、
やっつけ仕事でDVDが製品化され、
店頭に並ぶなんて納得できない。
良い作品にしたいという思いは、翻訳者もディレクターも同じ。
意見を対等に言い合えて、気持ちよく仕事ができる関係を目指したい。
2013年12月29日日曜日
2013年12月28日土曜日
新しい仕事
転職をした。
社員4人の小さな会社。
外国映画の日本語字幕を制作をしている。
劇場公開作品もあるが、ほとんどはDVD用の映画である。
まだ2か月目なので、今後どうなるのか分からないが、
月約4~5本映画の翻訳依頼が来るらしい。
登録している翻訳者は10人にも満たない。
私の名刺の肩書きは「ディレクター」である。
特に権限があるわけではない。
コーディネーター兼チェッカーと言えば分かりやすいと思う。
クライアントから字幕制作の依頼が来ると
翻訳者に発注し、仕上がった原稿をチェックし
修正があれば翻訳者に戻して
最終稿をクライアントへ納品する。
翻訳をすることはないけれど
映像翻訳の現場で働ける仕事に就けて
よかったなと思っている。
社員4人の小さな会社。
外国映画の日本語字幕を制作をしている。
劇場公開作品もあるが、ほとんどはDVD用の映画である。
まだ2か月目なので、今後どうなるのか分からないが、
月約4~5本映画の翻訳依頼が来るらしい。
登録している翻訳者は10人にも満たない。
私の名刺の肩書きは「ディレクター」である。
特に権限があるわけではない。
コーディネーター兼チェッカーと言えば分かりやすいと思う。
クライアントから字幕制作の依頼が来ると
翻訳者に発注し、仕上がった原稿をチェックし
修正があれば翻訳者に戻して
最終稿をクライアントへ納品する。
翻訳をすることはないけれど
映像翻訳の現場で働ける仕事に就けて
よかったなと思っている。
2013年11月9日土曜日
燃え盛る火に油を注ぐ
人は、資産がいくらになると、「お金がない」と言い始めるのだろうか。
同じ職場の人々とは温度差を感じる。
今日は「外にランチに行きましょう」と誘われていた。
寿司屋に入った。
一緒に行った女性は、2,000円のにぎりを頼んだのでびっくりした。
2,000円あったら夫婦2日間(昼食&夕食)は暮らせるなあ。
彼女が、我が家のお金のなさを知ったら
きっとドン引きするだろうなと思う。
我が家は、子供のいない共働き家庭だから、と
余裕があるように思われることがある。
でも、私は派遣だし、今は共働きではない。
夫は9月末で退職し無職。
家計はますます火の車。
私は、制作会社に就職が決まり
11月中旬に退職する。
それ自体は、うれしいのだが、
家計は苦しくなるので気が重い。
これでよかったのかな、と憂鬱である。
マリッジブルーってこんな感じなのかな…
同じ職場の人々とは温度差を感じる。
今日は「外にランチに行きましょう」と誘われていた。
寿司屋に入った。
一緒に行った女性は、2,000円のにぎりを頼んだのでびっくりした。
2,000円あったら夫婦2日間(昼食&夕食)は暮らせるなあ。
彼女が、我が家のお金のなさを知ったら
きっとドン引きするだろうなと思う。
我が家は、子供のいない共働き家庭だから、と
余裕があるように思われることがある。
でも、私は派遣だし、今は共働きではない。
夫は9月末で退職し無職。
家計はますます火の車。
私は、制作会社に就職が決まり
11月中旬に退職する。
それ自体は、うれしいのだが、
家計は苦しくなるので気が重い。
これでよかったのかな、と憂鬱である。
マリッジブルーってこんな感じなのかな…
2013年11月8日金曜日
現状維持
剣術を一生懸命練習しても、なかなか上達せず、
いつも仲間にからかわれている青年が愚痴をこぼす。
その言葉を受けて、彼の仲間ジョンがこう言う。
2人は笑顔になる。
私は、はっとした。
知らない分野の翻訳を担当すれば、
色々調べて一時的に知識レベルや語彙は増やせるだろうけれど
最終的には日々の積み重ねがものをいうものだ。
すぐに上手くなる方法はない。
だから、多くの時間を費やし、地道に努力するしかない。
でも、なかなか前に進めず、いつまで経っても結果も出ないと
へこたれてしまう。
そんな時は、「何事も使わないと錆びつくものである」ことを
忘れている。
私は途方に暮れることが時々、いや、しょっちゅうある。
そんな時に、結果だけを求めない、このセリフを思い出したい。
現状を維持していくこともまた大切である。
いつも仲間にからかわれている青年が愚痴をこぼす。
I'm not going to get any better.
ちっともうまくならないよ
ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」第一章 3話「冥夜の守人」より (吹替)
その言葉を受けて、彼の仲間ジョンがこう言う。
Well…You can't get worse.
でも、ひどくもならない
ドラマ「ゲーム・オブ・スローンズ」第一章 3話「冥夜の守人」より (吹替)
2人は笑顔になる。
私は、はっとした。
知らない分野の翻訳を担当すれば、
色々調べて一時的に知識レベルや語彙は増やせるだろうけれど
最終的には日々の積み重ねがものをいうものだ。
すぐに上手くなる方法はない。
だから、多くの時間を費やし、地道に努力するしかない。
でも、なかなか前に進めず、いつまで経っても結果も出ないと
へこたれてしまう。
そんな時は、「何事も使わないと錆びつくものである」ことを
忘れている。
私は途方に暮れることが時々、いや、しょっちゅうある。
そんな時に、結果だけを求めない、このセリフを思い出したい。
現状を維持していくこともまた大切である。
2013年10月30日水曜日
面接の結果
制作会社の面接を受けた、のつづき。
先方の業務が立て込んでいるので
面接の結果は来週以降になると言っていた。
にも関わらず、面接の2日後にメールが来た。
イヤな予感がした。
こんなに早いなんて。
来た。これ。
今後のご活躍をお祈りする系の流れだ。
と思ったら、採用であった。
びっくりした。
映像翻訳に関わることができる仕事だ。
うれしい。
でもちょっと不安でもある。
先方の業務が立て込んでいるので
面接の結果は来週以降になると言っていた。
にも関わらず、面接の2日後にメールが来た。
イヤな予感がした。
こんなに早いなんて。
“慎重に検討しました結果、~”
来た。これ。
今後のご活躍をお祈りする系の流れだ。
と思ったら、採用であった。
びっくりした。
映像翻訳に関わることができる仕事だ。
うれしい。
でもちょっと不安でもある。
2013年10月28日月曜日
エロへの耐性
制作会社の面接を受けている、の続き。
先方に確認されたのは、
エロがOKかということだった。
邦画のポルノも扱っているが大丈夫か、と。
事務所内のPCが男女の絡みが映っている場合もあるし
ウェブサイトの作品リスト一覧の情報更新をすることもある。
なお、AVではない。
どうやらアジアでは日本のピンク系映画が人気らしく
問い合わせが最も多いのだという。
人類の半分は男なのだ。
エロ市場は不況知らず。縮小するはずはない。
大抵の制作会社はエロを扱っているのではないかと思う。
表向きには書かないだろうけれど。
翻訳する映画にポルノはないが
残虐なシーンを含むこともある。
そういう字幕のチェックすることもある、という。
この際、エロでもグロでも何でもOKである。
優等生の素材ばかりじゃないだろうなと私は思っている。
「バイオレンス系は割と好きなので大丈夫だと思います」と答えた。
先方に確認されたのは、
エロがOKかということだった。
邦画のポルノも扱っているが大丈夫か、と。
事務所内のPCが男女の絡みが映っている場合もあるし
ウェブサイトの作品リスト一覧の情報更新をすることもある。
なお、AVではない。
どうやらアジアでは日本のピンク系映画が人気らしく
問い合わせが最も多いのだという。
人類の半分は男なのだ。
エロ市場は不況知らず。縮小するはずはない。
大抵の制作会社はエロを扱っているのではないかと思う。
表向きには書かないだろうけれど。
翻訳する映画にポルノはないが
残虐なシーンを含むこともある。
そういう字幕のチェックすることもある、という。
この際、エロでもグロでも何でもOKである。
優等生の素材ばかりじゃないだろうなと私は思っている。
「バイオレンス系は割と好きなので大丈夫だと思います」と答えた。
2013年10月26日土曜日
前向きな面接
制作会社の面接に来た、の続き。
まず初めに先方は私の職務経歴書が分かりやすいと褒めてくれた。
SSTを使える人で、ここまで書いてくれる人は
中々いないと言う。
1枚目には、職歴とそれぞれの期間、3行づつの業務内容、資格、使えるソフトを書いた。
2枚目には、学校のコース修了年月と
これまでの映画祭など翻訳のリスト、志望理由が書いてある。
テンプレートのような職務経歴書だと思うのだが
かえってそれがよかったのかもしれない。
先方は前向きだった。
好意的過ぎて恐縮した。
「色んな職場を経験されていらっしゃる」
転職回数の多さをこんなにポジティブにとられたのは初めてである。
大抵は離職理由などを追及されて、
尋問されているような気持ちになったものだった。
「吹き替えまでされるというのは、これは相当ですね」
いや、あの、それは、授業で吹き替えの授業があっただけで、
あの学校の出身の人はみんなやってます。
学校のコース内容に、「字幕、VO、吹き替え」と書いていた。
「もうプロの翻訳家として、やっていらっしゃるんですね」
いえ、いえ、そんな大げさな。
尺は長くて25分だし、報酬を頂く案件もあったけれど
ボランティアを含めても
数えるほどしか受注していませんよ。
チェックをやってもらおうと思っていたけど
翻訳も頼めるなら、それでもいいね、と先方。
それは、うれしいな。
和やかな面接だった。
私の反応を見るために
こんなに友好的なのだろうか、とさえ思った。
まず初めに先方は私の職務経歴書が分かりやすいと褒めてくれた。
SSTを使える人で、ここまで書いてくれる人は
中々いないと言う。
1枚目には、職歴とそれぞれの期間、3行づつの業務内容、資格、使えるソフトを書いた。
2枚目には、学校のコース修了年月と
これまでの映画祭など翻訳のリスト、志望理由が書いてある。
テンプレートのような職務経歴書だと思うのだが
かえってそれがよかったのかもしれない。
先方は前向きだった。
好意的過ぎて恐縮した。
「色んな職場を経験されていらっしゃる」
転職回数の多さをこんなにポジティブにとられたのは初めてである。
大抵は離職理由などを追及されて、
尋問されているような気持ちになったものだった。
「吹き替えまでされるというのは、これは相当ですね」
いや、あの、それは、授業で吹き替えの授業があっただけで、
あの学校の出身の人はみんなやってます。
学校のコース内容に、「字幕、VO、吹き替え」と書いていた。
「もうプロの翻訳家として、やっていらっしゃるんですね」
いえ、いえ、そんな大げさな。
尺は長くて25分だし、報酬を頂く案件もあったけれど
ボランティアを含めても
数えるほどしか受注していませんよ。
チェックをやってもらおうと思っていたけど
翻訳も頼めるなら、それでもいいね、と先方。
それは、うれしいな。
和やかな面接だった。
私の反応を見るために
こんなに友好的なのだろうか、とさえ思った。
2013年10月24日木曜日
面接に行く
制作会社で字幕翻訳のチェッカーを募集していたので
応募した、のつづき。
履歴書と職務経歴書をメールすると
2日ほどで面接したいと連絡が来た。
その会社はウェブサイトは会社概要の1ページしかないし
関連する情報が全く見つけられなかった。
会って確かめるしかない。
私は年休を取り、面接に向かった。
古臭いビルだった。
1階は居酒屋でエレベーターホールは暗い。
日陰で怪しく、空気の澱んだ雰囲気。
嫌いじゃないなと思った。
朝日の差すガラスカーテンウォールの高層ビルに
綺麗な格好をした人々が吸い込まれていく雰囲気は
背伸びしているみたいでちょっと疲れる。
エレベーターが開く。
目の前の部屋の扉が開いていた。
何だ?この会社、と思った。
その隣に、私が受ける会社の名の記したドアがあった。
ノックすると、
「あー、そっちじゃない、こっち、こっち」
と後ろから男性の声がした。
振り返ると、スーツの男性が
開けっ放しの部屋の入口で手招きしている。
6人掛けの打ち合わせテーブルがあり
席につく。
先方は3人だった。
応募した、のつづき。
履歴書と職務経歴書をメールすると
2日ほどで面接したいと連絡が来た。
その会社はウェブサイトは会社概要の1ページしかないし
関連する情報が全く見つけられなかった。
会って確かめるしかない。
私は年休を取り、面接に向かった。
古臭いビルだった。
1階は居酒屋でエレベーターホールは暗い。
日陰で怪しく、空気の澱んだ雰囲気。
嫌いじゃないなと思った。
朝日の差すガラスカーテンウォールの高層ビルに
綺麗な格好をした人々が吸い込まれていく雰囲気は
背伸びしているみたいでちょっと疲れる。
エレベーターが開く。
目の前の部屋の扉が開いていた。
何だ?この会社、と思った。
その隣に、私が受ける会社の名の記したドアがあった。
ノックすると、
「あー、そっちじゃない、こっち、こっち」
と後ろから男性の声がした。
振り返ると、スーツの男性が
開けっ放しの部屋の入口で手招きしている。
6人掛けの打ち合わせテーブルがあり
席につく。
先方は3人だった。
2013年10月22日火曜日
制作会社に応募した
私は、派遣社員である。
来年の3月で満3年となる。
私の契約だと、3年以上の勤務はできない。
10月、現職で大きなイベントが終わりひと段落がつき、
そろそろ本格的に探し始めようかなと思った。
私のレベルでは、翻訳だけで食べてはいけない。
経済的に専業主婦にはなれないので
会社勤めをしなければならない。
次はどんな仕事を選ぼうか、とずっと悩んできた。
映像翻訳がしたくても会社のスタッフとして翻訳の求人はめったに見たことがない。
翻訳に応募するのではないから
どうするのがよいのか、2つの方向で迷っている。
業界を取るか、時間を取るか――。
日中は、映像翻訳とは関連がないけれど、残業のない派遣の仕事をして、
夜は翻訳ができるように、時間を確保しておいたほうがいいのだろうか?
無味乾燥で退屈なビジネスの話でも、
手を動かして翻訳ができる。
一方、制作会社に応募してアシスタントでも何でもよいから業界に入れば
翻訳の前後のプロセスが分かっていいだろうなと思う。
でも、派遣と違って残業が多そう。
翻訳を担当できない場合、
拘束時間が長い仕事を選んでよいのだろうか?
それでも、現場を知る環境にいたほうがいい。
フリーでやっていけるまでには数年かかるのだから。
人脈もプラスになるだろう。
迷いながらも、これまで制作会社5社に応募してきた。
全て不採用だった。
先日、制作会社での字幕翻訳のチェッカーの求人を見つけた。
懲りずにまた応募した。
来年の3月で満3年となる。
私の契約だと、3年以上の勤務はできない。
10月、現職で大きなイベントが終わりひと段落がつき、
そろそろ本格的に探し始めようかなと思った。
私のレベルでは、翻訳だけで食べてはいけない。
経済的に専業主婦にはなれないので
会社勤めをしなければならない。
次はどんな仕事を選ぼうか、とずっと悩んできた。
映像翻訳がしたくても会社のスタッフとして翻訳の求人はめったに見たことがない。
翻訳に応募するのではないから
どうするのがよいのか、2つの方向で迷っている。
業界を取るか、時間を取るか――。
日中は、映像翻訳とは関連がないけれど、残業のない派遣の仕事をして、
夜は翻訳ができるように、時間を確保しておいたほうがいいのだろうか?
無味乾燥で退屈なビジネスの話でも、
手を動かして翻訳ができる。
一方、制作会社に応募してアシスタントでも何でもよいから業界に入れば
翻訳の前後のプロセスが分かっていいだろうなと思う。
でも、派遣と違って残業が多そう。
翻訳を担当できない場合、
拘束時間が長い仕事を選んでよいのだろうか?
それでも、現場を知る環境にいたほうがいい。
フリーでやっていけるまでには数年かかるのだから。
人脈もプラスになるだろう。
迷いながらも、これまで制作会社5社に応募してきた。
全て不採用だった。
先日、制作会社での字幕翻訳のチェッカーの求人を見つけた。
懲りずにまた応募した。
2013年10月21日月曜日
映画「ポルトガル、ここに誕生す」
先日、カウリスマキの最新作を観てきた。
4人の映画監督によるオムニバス映画。
1本目がカウリスマキ。
ほとんどセリフのないショートムービー。
私と友達だけが、声に出して笑っていたけれど
他の観客は全く笑わず、静かに見ていた。
彼の映画は「芸術的だ!」と言って
真面目に見るような、お高くとまった映画じゃないと思うのだが。
2本目、3本目はひどく退屈だった。
映画館で寝てしまったのは初めてである。
気がつくと4本目の終わり。
ほとんどセリフのないショートムービー。
私と友達だけが、声に出して笑っていたけれど
他の観客は全く笑わず、静かに見ていた。
彼の映画は「芸術的だ!」と言って
真面目に見るような、お高くとまった映画じゃないと思うのだが。
2本目、3本目はひどく退屈だった。
映画館で寝てしまったのは初めてである。
気がつくと4本目の終わり。
エンディングには、グレン・グールドが弾くバッハが流れた。心地よい目覚めであった。
2013年10月20日日曜日
カウリスマキがスキ
映画監督アキ・カウリスマキの映画は
わっはっはと笑うというより
むふふと静かにこみ上げてくる笑いのコメディーである。
登場人物は全員、苦虫を噛んだような、しかめっ面の大真面目。
それがどうも滑稽で可笑しい。
軽いジャブなのに、なぜかノックアウトされるような気分になる。
劇中の人物は笑わないし、冗談も言わない。
そもそもセリフが少ない。下ネタもない。
それで人を笑わせるのだからすごい。
カウリスマキ映画の特徴を3つ上げるとしたら…
カウリスマキ映画の特徴を3つ上げるとしたら…
(1)貧しい食事
しかも、まずそう。彼の映画の登場人物は庶民なのだが、
それにしても貧乏である。
日本におけるフィンランドのイメージと言えば、
「スタイリッシュで、センスがよくって、いい暮らし」だろうか。
それらをぶち壊しにする貧しさである。
バゲットなんて、カチカチに硬くて
それにしても貧乏である。
日本におけるフィンランドのイメージと言えば、
「スタイリッシュで、センスがよくって、いい暮らし」だろうか。
それらをぶち壊しにする貧しさである。
バゲットなんて、カチカチに硬くて
いつも力いっぱい、引きちぎっている。
ナイフで切ってもなかなか切れない。
(2)唐突なストーリー
話が早い。トントン拍子で物語が進む。
でも、「そんなアホな~」という展開って
(3)きれいな色
無表情の役者とは対照的に、画面の色はとても鮮やかでロマンチック。
ターゴイズブルーの壁に立つ男性。
カウリスマキ節が全開のシーン。![]() |
『ポルトガル、ここに誕生す』
|
2013年10月19日土曜日
牛歩
飛行機の機内で上映するための映画の
字幕制作の打診が来た、のつづき。
有名な俳優が出ているカーアクションの映画だった。
(日本で劇場公開されるかは不明)
こういう映画が「仕事」として依頼がくるなんて
何だか夢みたいだなと思った。
今は分業でしか引き受けられないけれど
勉強を始めた頃には
勉強を始めた頃には
実際に自分がこういう仕事に関わることができるなんて
いまいち想像できなかった。
日々の変化は感じられないけれど、
年単位で見た時には少しづつ進歩している。
焦らず、しつこく、勉強するしかないなと思う。
2013年10月18日金曜日
一兎づつ
8月に映画の字幕制作の打診があった。
当時まだ日本では未公開の映画で、
飛行機の機内上映用のものだった。
やりたくて仕方がない案件だったが
後ろ髪ひかれる思いで断った。
難民映画祭の字幕制作(ボランティア)の真っ只中だったのだ。
これを落とすわけにはいかない。
それに、作業期間は盆休みだったので、夫の実家に帰省している。
映画祭をこなすのが精一杯。
短納期の案件を集中的にできる環境ではなかった。
新人は、たまのチャンスを逃すべきではない。
折角、仕事を振ってくれたのだ。
しかし、掛け持ちだろうが、何だろうが
勢いで仕事を受けて、先方に迷惑をかけたら
「次」はない。
二兎を追う者は一兎をも得ず――。
そんな思いが頭の中をぐるぐる回った。
また、仕事が巡ってくるとしたら数か月後かな。
予想どおり何もなく10月になった。
このまま年末まで暇なんだろうか。
あの時、断ったの、やっぱりまずかったかなと思っていた矢先のこと。
再び機内上映用の映画字幕制作の依頼が来た。
今度こそは「やります!」と引き受けた。二度目の仕事だった。
2013年10月2日水曜日
「違和感」を考える
菅官房長官が、「違和感」という言葉で
ぼんやりと意見することについて
東京新聞の記事を読んだ。
官房長官は伝えるのが仕事である。
正しい日本語で明確な声明を発表してほしい。
「違和感があります」
翻訳の制作チームで互いの訳をチェックしあう場合、
見かける言葉である。
本当は、その言葉だけで、
「ああ、そうか、こういう表現の方がいいな」と
はっと別の案が思い浮かぶべきなのだろう。
でも、当の本人は正しいと思って書いているのだから
何がつながっていないのか
何が足りないのかが見えないことがある。
少なくとも私はそうだ。
翻訳者は制作者側に立っている。
違和感があるのなら、その理由を明確に
そしてコンパクトに言い表せなければならない。
ボールを投げている方向が違うのなら、
そっちじゃない、という言うだけではなく、
ストライクゾーンは、このあたりだと示したいものだ。
私は伝える側にいたい。
修正すべき理由や代案の方向性を言葉にできないのなら
制作者側ではなく、単なる視聴者としての感想に過ぎない。
だから、自分が他人の成果物に意見する場合は、
「違和感があります」とだけのコメントを残すのは避けるようにしている。
「違う」と突き返すだけなら簡単だ。
でも、うまく表現ができず「違和感」で逃げてしまうこともある。
そんな時、制作者になりきれない自分をもどかしく思う。
2013年9月12日木曜日
漫画「アンカル」
SF長編漫画『アンカル』が面白い。
原作は映画監督 アレハンドロ・ホドロフスキー。
画を担当したのは、メビウスのペンネームで知られる、フランスの漫画家ジャン・ジロー。
本国では1981年に第1巻が発売された。
日本語版は遅れること5年、1986年に講談社が1巻を出版。
原作は1988年に第5巻で完結したのだが、
何があったのか、2巻以降が翻訳されることはなく、物語は未訳のまま時が過ぎた。
2010年、ついに小学館から日本語の完訳版が出版された。
やっと日本の読者に届いた物語は、30年前に書かれた「未来」の話。
2013年に読んでも、古くささは感じられず
時の洗礼にも耐えうる面白さがある。
何より画が素晴らしい。
メビウスの画は、飛んでいる、あるいは
ふわっと浮いている画が気持ちいい。
メビウスのウェブサイト
http://www.moebius.fr/
2013年9月11日水曜日
ゆるゆるの日々
8月末に映画祭の字幕制作が終わった。
その後、オーディションに1本応募して落選してからは
気楽に過ごしている。
美術館に行ったり、漫画やエッセイを読んだり
ドラマや映画を見たり。
翻訳で追われていた8月半ばには
こんな享楽的な過ごし方を待ち望んでいたはずなのに
それだけの日々には、もう飽きてきたわ。
翻訳の仕事来たらいいなあ。
次にお声がかかるのは、どれくらい先になるのだろうか。
それまではドラマのスクリプトでも読んで字幕を観察をしていよう。
その後、オーディションに1本応募して落選してからは
気楽に過ごしている。
美術館に行ったり、漫画やエッセイを読んだり
ドラマや映画を見たり。
翻訳で追われていた8月半ばには
こんな享楽的な過ごし方を待ち望んでいたはずなのに
それだけの日々には、もう飽きてきたわ。
翻訳の仕事来たらいいなあ。
次にお声がかかるのは、どれくらい先になるのだろうか。
それまではドラマのスクリプトでも読んで字幕を観察をしていよう。
2013年9月3日火曜日
血まみれの原稿
映画祭の字幕制作では、翻訳者同士で訳文を交換しレビューし合った。
それを、担当ディレクターがチェックし、
映画祭事務局が表現の最終判断をする。
それぞれの関門で
ぐさぐさと刺さるように指摘されて、
私の原稿は、もう血まみれであった。
映画祭事務局が表現の最終判断をする。
それぞれの関門で
ぐさぐさと刺さるように指摘されて、
私の原稿は、もう血まみれであった。
意図が掴めない旨のコメントには反省した。
誰にも何も言わせない字幕を
書けるようになりたい。
2013年9月1日日曜日
食べ物とイメージ
男友達とアイスクリームの話になった。
私は、ベートーベンと3時のおやつに
アイスクリームを食べたことを話した。
アイスクリームを食べたことを話した。
すると、彼が言う。
「何食べた?」
「ピノだよ」
「何それ」と彼は意味深な視線を投げる。
「はあ?何が?」
「それは、かわいさアピールか?」
「はいっ?何で?ピノが好きなだけだよ」
私は笑った。
私は笑った。
「ね、ピノってかわいいの?脂肪分が高いから?」
「いや、そういうことじゃない」
彼曰く――
例えば、レモンサクレは一見さわやかそうだけど、
木のスプーンで、力入れてガリガリっと突くのは
色気がない。
そこへいくと、ピノなんてのは、
スティックでぷすっと指して、
ひと口でパクっと口に含み、
そんなこと考えたことなかったわ。
でも、物語を訳す時には、この発想は大事だ。
登場人物のキャラクターやイメージって
こういう小さな演出の積み重ねで作り上げられる。
「ふーん。じゃ、一番エロいアイスって何?」
「わはは、もう、バカ!やらなくていいってば!」
と、彼の腕をはたいた。
男の人は想像力が豊かですな。
2013年8月29日木曜日
9月からスタート?
映像のない映像翻訳のトライアルの人からは
9月ごろから、翻訳をお願いしたいと、メールが来た。
データ送信後、3週間連絡がなかったので
絶対落ちたのだと思っていた。
私が提示したレートを、
もうちょっと安くしてほしいと言っている。
1ワードいくらが妥当なのか、よく分からないけれど、
映画祭の仕事の報酬をワードに換算してみた。
その金額が先方の予算に合っていたのだろうか?
先方のリアクションが無いまま1か月以上が過ぎている。
もうすぐ9月だけど、どうなるのかな?
まあ、クラウドソーシングって結構いい加減っぽいから
このまま立ち消えになるかもしれない。
データ送信後、3週間連絡がなかったので
絶対落ちたのだと思っていた。
私が提示したレートを、
もうちょっと安くしてほしいと言っている。
1ワードいくらが妥当なのか、よく分からないけれど、
映画祭の仕事の報酬をワードに換算してみた。
その金額が先方の予算に合っていたのだろうか?
先方のリアクションが無いまま1か月以上が過ぎている。
もうすぐ9月だけど、どうなるのかな?
まあ、クラウドソーシングって結構いい加減っぽいから
このまま立ち消えになるかもしれない。
今度は、映像を送ってくれるとよいのだけれど。
2013年8月27日火曜日
裏の意味
職場で支給されている携帯電話の交換が行われた。
私の向かいにいるRayさん(カナダ人・男性)のところに
ITの担当者がやってきた。
Rayさんの携帯電話はOSのアップデート時に
不具合があり、写真のバックアップが取れないのだと言う。
Rayさんは、大丈夫、プライベートPCと同期済みだ、と言った。
"I backed up. OK."
Rayさんの隣の席のRickさん(アメリカ人・男性)が
"I don't wanna hear that from you."
と、言って彼らは笑った。
私の隣の席のHarryさん(カナダ人・男性)も笑った。
私は、一体何がおかしいのかさっぱり分からなかったので
特に気にも留めず、仕事をしていた。
Harryさんは日本語が上手。
にたにたして、話しかけてきた。
「Riさん、今、どうして笑ったか、わかる?」
「え、わかりません」
「面白い意味ネー。ハハハ」
はあ?!教えてよ!
私は、Rayさんに聞いた。
"What
was that?"
"Umm…
It's not appropriate to say it here..."
彼は、照れくさそうな顔で言葉を濁した。
下ネタか、おい。
辞書を引いた。
"back up"と辞書ソフトのパソラマで打ってみると
名詞が出てきた。
「成句検索」をクリックする前に、
見出しの下の方の俗語の意味が目に飛び込んできて、
手が止まった。
báckùp―n.8 ⦅米俗〓⦆ 数人の男が1人の女と次々にする性交,「回し」(gang bang).『ランダムハウス英和大辞典』(第2版) 小学館
うそ!ま、まさか、これ?
どこが「面白い意味」なん?
卑猥すぎて、これはさすがにドン引きだわ。
後援、予備、代替物、から転じて、それかい。
英語って、どこからでも下ネタ持ってくるなあ。
Rickさんは上品で紳士的な人である。
Rayさんはさわやかな好青年である。
あの2人が本当にこの意味で笑ったのだろうか?
信じがたかった。だから余計に気になってきた。
Rayさんに本当の意味を聞いてみたいけど、
変態だと思われるかな?
私は数日もやもやしていた。
ふと、「成句検索」を押さなかったことを思い出した。
backの動詞の意味を調べていなかったのだ。
back up(5)⦅米俗⦆ 麻薬を注射する.『ランダムハウス英和大辞典』(第2版) 小学館
「あれって、あの意味?」と聞かなくて良かった。
辞書は、ちゃんと引こう。
2013年8月23日金曜日
原音が聞き取れない時に便利なアプリ
台本とセリフが違う時、自分の耳が頼りだ。
文脈から想像したり、文法的なアプローチで英文を起こすこともある。
それでも、どうしてもわからない時がある。
知らない単語は聞こえない。
そんな時に便利なアプリがある。
Dragon
Dictation
10か国語以上に対応し、音声を認識して、テキストにしてくれるiPhone/iPad対応の無料アプリ。
精度は高いと思う。
聞こえたとおりの英語を声に出してみると
聞こえたとおりの英語を声に出してみると
「そうそう、これこれ!」というテキストを書いてくれる。
音声認識の技術はどんどん進化しているんだなあと思う。
今回の映画祭の中で、話者が何かを言いかけるが、
相手に遮られるシーンがあった。
何を言おうとしていたのかは、台本には書かれていない。
でも、1秒ほど原音が聞こえるし、意味がある言葉を話しているので
4文字程度の字幕を書く必要がある。
そのセリフは、話を聞いてほしくて、前のめりになっているけれど、
言葉が上手く出てこないうちに、相手に「わかった、わかった」と
遮られる言葉だった。
文になっている必要はなくて、何かを言いかけている雰囲気が出れば、何でもよさそう。
2人が話していたのは、フランス語だった。
でも、私はフランス語が、まったく分からない。
最初は前後のつながりから何の根拠もなく
「どうしたら…」「どうすれば…」「どこに…」などとした。
しかし、原音は、HowにあたるCommentの音
WhatやWhichにあたるQue などQの音とも違う。
「イリヤーイリャイリャー」のように聞こえる。
そこで、方向性のヒントが欲しくて、このDragon
Dictationを使った。
アプリの言語をフランス語に設定し、私のインチキフランス語を聞かせてみた。
そして、テキストになったフランス語を、グーグルで翻訳すると
there are nothing like のような英語になった。
数回やってみたが、nothingが必ず入ってくるので、
その要素だけ字幕に反映することにした。
ディレクターに問い合わせをするまでもないんだけど…という時には便利かなと思う。
2013年8月21日水曜日
繰り返し
難民映画祭の日本語字幕制作をした。
素材を受け取ると、絶望的な気持ちになった。
こんなの訳せるのか?と思った。
トライアルなり、これまでの映画祭なり、
初見では毎度同じような気分になる。
おまけに、分量が予想していたよりも多かった。
10分くらいかなと思っていたら
約25分を担当することに。
これだけの尺を担当のは初めてだ。
どうしよう、どうしよう、と思いながら、
本を読んで、辞書を引いて、何度も映像を見た。
何とか第1稿の完成までたどり着くと
できるかも、少し落ち着いてくる。
本当は、そこからが時間がかかるのだが。
赤鉛筆を片手に、ベッドにごろんと
だらしなく寝転んで原稿とにらめっこしていると、
第1稿なんて跡形もなくなってしまう。
修正し、映像に合わせて見て、気になったところをチェック。
データを出力して、赤入れ。
それをひたすら繰り返す。
時間はどんどん過ぎていく。
チームの方と摺合せを経て、納品した。
ディレクターからのレビューを待つ。
気付けば夏休みは残り2日になっていた。
最初は、弱気にだったけれど、
形が見えてくると、来年も暇だったらやろうかな、などと思う。
2013年7月23日火曜日
「無国籍」について考える
今年も学校経由でUNHCR主催の難民国際映画祭の字幕制作をする予定。
http://unhcr.refugeefilm.org/start/
難民や国内避難民、無国籍者などをテーマにした映画を上映する映画祭である。
今年は9月28日(土)から10月6日(日)に行われる。
まだ素材の詳細は分からない。
今のうちに、難民や国籍に関する資料を読んでおこうと思い
この本を手に取った。


「無国籍」陳 天璽著
著者は、台湾から横浜に来た両親の元に生まれた。
日本は、中国との国交を正常化したのと引き換えに台湾と国交を絶った。
その時に、著者の家族は国籍の選択を迫られる。
日本か中華人民共和国か。
彼らは、「無国籍」を選んだ。
この本は、無国籍者として生きた著者の半生の記録である。
就学や就職の際、「国籍」に足を引っ張られっる。
著者は悩みながらも困難に立ち向かい、
人生を切り開いていく。
興味をそそる内容だった。
明快な文章であり、するすると頭に入っていく。
人権や国籍をテーマにしたり
政治に翻弄され、法律の狭間に取り残された人に
焦点を当てると、暗い内容になりがちだ。
ところが、陰鬱な空気を感じない。
それは彼女がいつも前を向いているからかもしれない。
この講演会のスピーチは書籍をコンパクトにまとめた内容になっている。
http://www.taminzoku.com/news/kouen/kou0406_chin.html
http://unhcr.refugeefilm.org/start/
難民や国内避難民、無国籍者などをテーマにした映画を上映する映画祭である。
今年は9月28日(土)から10月6日(日)に行われる。
まだ素材の詳細は分からない。
今のうちに、難民や国籍に関する資料を読んでおこうと思い
この本を手に取った。
「無国籍」陳 天璽著
著者は、台湾から横浜に来た両親の元に生まれた。
日本は、中国との国交を正常化したのと引き換えに台湾と国交を絶った。
その時に、著者の家族は国籍の選択を迫られる。
日本か中華人民共和国か。
彼らは、「無国籍」を選んだ。
この本は、無国籍者として生きた著者の半生の記録である。
就学や就職の際、「国籍」に足を引っ張られっる。
著者は悩みながらも困難に立ち向かい、
人生を切り開いていく。
興味をそそる内容だった。
明快な文章であり、するすると頭に入っていく。
人権や国籍をテーマにしたり
政治に翻弄され、法律の狭間に取り残された人に
焦点を当てると、暗い内容になりがちだ。
ところが、陰鬱な空気を感じない。
それは彼女がいつも前を向いているからかもしれない。
この講演会のスピーチは書籍をコンパクトにまとめた内容になっている。
http://www.taminzoku.com/news/kouen/kou0406_chin.html
2013年7月21日日曜日
伝わる文章について考える
「耳と文章力 上手な文章を書く秘訣」
丸山 あかね (著)
よい文章を書けるようになるには、どうしたらよいか。
著者は、絶対音感のように、“絶対文章感”のようなものが
あるのではないかという仮説からスタートする。
著名な作家らに、文章を書くことについてインタビューをする。
それぞれに、キラリと光る言葉がある。
国語学者、大野晋は、「物事をよく見る洞察力と繊細な感受性が大事だ」と言う。
伝えたいことが明確であること、そしてそれを正確に伝えるために、文法にこだわることが必要だ、とも。
文章を書く力は「使わずにいれば、退化してしまう」と
井伏鱒二が何も書くことがなくても1日に3枚分の原稿を書いたことを例に挙げた。
その他、多数の作家のコメントをまとめると…
・たくさん読め
・たくさん書け。怠けると錆びる
・中身があることを書け
・書きたい欲求に駆られて書け
・客観性な視点を持て
・うまい人の真似をしろ
・読者を意識しろ
・短いセンテンスで書け
翻訳に照らし合わせて考えると
どれも「そうだなあ、肝に銘じよう」と、思う。
振り返れば、翻訳学校で何度も言われたことばかりで、
目新しいことを言っているわけではない。
どの講師も、自身の言葉で、色んな角度から
これらの心構えを伝えようとしていたことを思い出す。
学校を離れた今、こういう本を読むと
背筋がしゃんとする気分になる。
同じことが書かれていることは分かっていながら
手に取りたくなる。
自己啓発本のようなものかもしれない。
なかにし礼、勝目梓、藤沢周、重松清などインタビュー部分は面白い。
それぞれに重みのある言葉がある。
また、多くの作家の考えが、一冊にコンパクトにまとまっている点も良い。
大勢の文筆家に会う立場にある著者ならではのものである。
ただ、合間に軽々しく茶化す著者の文章と
随所に見られる自己アピールが余分だと感じた。
2013年7月19日金曜日
ある花の名前
前回の投稿は「Collect-me-nots」と題された記事についてだった。
私は、このタイトルで、ある花の名前を思い出した。
私は、このタイトルで、ある花の名前を思い出した。
こんな逸話がある。
大雨が降った翌日、水かさが増した川には濁った水が勢いよく流れている。
岸辺には、小さな青い花が咲いている。
そこへ通りかかった、男の子と女の子。
二人は、きっと恋をしている。(と、私は思う)
女の子が、あの花きれいね、とでも言ったのだろうか。
男の子は、うなるような激しい流れのすぐ脇に咲いている花を
彼女にあげようと、そっと近づいた。
彼女にあげようと、そっと近づいた。
手を伸ばして、なんとか花を摘んだと思った、その瞬間
彼の足元の土が、どさっと崩れた。
とっさに彼は、その花を女の子に投げて、叫んだ。
"Forget me not!"
そして、あっという間に激流にさらわれて、そのまま戻らぬ人になった。
悲しいエピソードを持つその花の名前は、忘れな草。
この花を見かけると、そんな逸話を思い出す。
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