納品をした日の朝、東京に台風が上陸し、
昼頃には過ぎ去っていた。
会社帰り、駅から自宅までを歩く。
雨で空気が洗われたのか、すっきりとした色の夜空だった。
見上げると、月が出ている。満月でもないのに、妙に明るい。
周りには、ほわっと輪がかかっている。
あれ、どこかで見たな、と思った。
翻訳のために、台風や気象に関する本をいくつか手元に揃えていた。
家について、パラパラと本をめくる。
その本によれば「ハロ」というらしい。太陽に出ることもある。
月光が、大気上層の巻層雲などを通過するとき
雲に含まれる六角柱状の氷に屈折して出現するのだそうだ。
ウィキペディアでは「暈(かさ)」という見出し語で出ている。
こんな漢字、字幕ではそのまま使えない。
朝日新聞では、どうだろう。
太陽の場合、「日暈(ひがさ)現象」とルビ表記。
http://www.asahi.com/area/tokyo/articles/TKY201308170333.html
気象庁は、「暈(うん、かさ、ハロー)」と3つ書いてある。
http://www.jma.go.jp/jma/kishou/know/faq/faq13.html
いろいろ呼び方があるらしい。
映像翻訳が楽しいのはこんな時だ。
知らなかったことを知る。
あるいは、知らないことにさえ自分が気づいていなかったことを
思い知らされる。
普段は気にも留めなかったことや興味が全く湧かないことでも
無理やり調べていくと、ほほう!と思うことがある。
翻訳をきっかけに、出会う本も多い。
だから何?ということや、ものの名前は知らなくても生きていける。
すぐに何かの役に立つわけではない。
でも、きっと人生を豊かにすると私は信じている。
月の暈、かあ。
もう一度見たくて、夕食後、外に出た。
空一面に薄い雲が広がっている。
暈はもう消えてしまっていた。