2013年7月23日火曜日

「無国籍」について考える

今年も学校経由でUNHCR主催の難民国際映画祭の字幕制作をする予定。
http://unhcr.refugeefilm.org/start/

難民や国内避難民、無国籍者などをテーマにした映画を上映する映画祭である。
今年は9月28日(土)から10月6日(日)に行われる。

まだ素材の詳細は分からない。
今のうちに、難民や国籍に関する資料を読んでおこうと思い
この本を手に取った。



「無国籍」陳 天璽著

著者は、台湾から横浜に来た両親の元に生まれた。
日本は、中国との国交を正常化したのと引き換えに台湾と国交を絶った。
その時に、著者の家族は国籍の選択を迫られる。
日本か中華人民共和国か。
彼らは、「無国籍」を選んだ。
この本は、無国籍者として生きた著者の半生の記録である。

就学や就職の際、「国籍」に足を引っ張られっる。
著者は悩みながらも困難に立ち向かい、
人生を切り開いていく。
興味をそそる内容だった。
明快な文章であり、するすると頭に入っていく。

人権や国籍をテーマにしたり
政治に翻弄され、法律の狭間に取り残された人に
焦点を当てると、暗い内容になりがちだ。

ところが、陰鬱な空気を感じない。
それは彼女がいつも前を向いているからかもしれない。


この講演会のスピーチは書籍をコンパクトにまとめた内容になっている。
http://www.taminzoku.com/news/kouen/kou0406_chin.html

2013年7月21日日曜日

伝わる文章について考える



「耳と文章力 上手な文章を書く秘訣」
丸山 あかね (著)

よい文章を書けるようになるには、どうしたらよいか。
著者は、絶対音感のように、“絶対文章感”のようなものが
あるのではないかという仮説からスタートする。
著名な作家らに、文章を書くことについてインタビューをする。
それぞれに、キラリと光る言葉がある。

国語学者、大野晋は、「物事をよく見る洞察力と繊細な感受性が大事だ」と言う。
伝えたいことが明確であること、そしてそれを正確に伝えるために、文法にこだわることが必要だ、とも。
文章を書く力は「使わずにいれば、退化してしまう」と
井伏鱒二が何も書くことがなくても1日に3枚分の原稿を書いたことを例に挙げた。

その他、多数の作家のコメントをまとめると…
・たくさん読め
・たくさん書け。怠けると錆びる
・中身があることを書け
・書きたい欲求に駆られて書け
・客観性な視点を持て
・うまい人の真似をしろ
・読者を意識しろ
・短いセンテンスで書け

翻訳に照らし合わせて考えると
どれも「そうだなあ、肝に銘じよう」と、思う。

振り返れば、翻訳学校で何度も言われたことばかりで、
目新しいことを言っているわけではない。
どの講師も、自身の言葉で、色んな角度から
これらの心構えを伝えようとしていたことを思い出す。

学校を離れた今、こういう本を読むと
背筋がしゃんとする気分になる。
同じことが書かれていることは分かっていながら
手に取りたくなる。
自己啓発本のようなものかもしれない。

なかにし礼、勝目梓、藤沢周、重松清などインタビュー部分は面白い。
それぞれに重みのある言葉がある。

また、多くの作家の考えが、一冊にコンパクトにまとまっている点も良い。
大勢の文筆家に会う立場にある著者ならではのものである。

ただ、合間に軽々しく茶化す著者の文章と
随所に見られる自己アピールが余分だと感じた。

2013年7月19日金曜日

ある花の名前

前回の投稿は「Collect-me-nots」と題された記事についてだった。
私は、このタイトルで、ある花の名前を思い出した。  

こんな逸話がある。

大雨が降った翌日、水かさが増した川には濁った水が勢いよく流れている。
岸辺には、小さな青い花が咲いている。

そこへ通りかかった、男の子と女の子。
二人は、きっと恋をしている。(と、私は思う)

女の子が、あの花きれいね、とでも言ったのだろうか。
男の子は、うなるような激しい流れのすぐ脇に咲いている花を
彼女にあげようと、そっと近づいた。

手を伸ばして、なんとか花を摘んだと思った、その瞬間
彼の足元の土が、どさっと崩れた。
とっさに彼は、その花を女の子に投げて、叫んだ。

"Forget me not!"

そして、あっという間に激流にさらわれて、そのまま戻らぬ人になった。







悲しいエピソードを持つその花の名前は、忘れな草。
この花を見かけると、そんな逸話を思い出す。 




2013年7月17日水曜日

6年前のブックマーク


オンラインのメモを整理していたら、2007年のニューヨークタイムズの記事があった。
タイトルは、"Collect-me-nots" (集めないでほしいもの)。


こんな衝撃的なセンテンスで始まる。
The owner of Napoleon’s penis died last Thursday in Englewood, N.J.---

先週の木曜日、ニュージャージー州イングルウッドで
ナポレオンのペニスの所有者が死亡した。
ぎゃー!保存していたってこと?と
びっくりして、クリップしていたのだろう。

その所有者はコロンビア大学の教授。
偉人の遺品のコレクターで
リンカーンの血が付いた襟や
ナチス党の実力者ゲーリングがシアン化合物で自殺を図った時の薬物入れなど、
「それ、欲しいか?」と思うような軍事関連のものを集めている。

そして、こんなセンテンスが続く。
But the penis, which supposedly had been severed by a priest who administered last rites to Napoleon and overstepped clerical boundaries, stood out (sorry) from the professor’s collection of medieval armor, Civil War rifles and Hitler drawings.

ナポレオンの葬儀を執り行った司祭がその権限を越えて
ペニスを切除したものとされている。
中世の甲冑や南北戦争で使われたライフル銃、
ヒトラーのスケッチなど、教授のコレクションの中でも、
このペニスは際“立って”いた。
(失礼)
うっかり変なところで反応してしまい、笑ってしまった。
大文字で「STOOD」とせず、
(sorry)と控えめな点に親しみを感じる。 

2013年7月14日日曜日

自分だけの方法

今、活躍している方々が「どうやって翻訳者になったのか?」あるいは
「どうやって最初の仕事を受注したのか」は、翻訳者を目指す人にとっては、
気になるところだ。
雑誌やらウェブのインタビュー記事でよく見かける。

私は、この類の記事にあまり共感したことがない。
雲の上にある、手の届かない世界のように思えてしまう。

経歴が超エリート、とか
理系の難しい専門分野を持っている、とか
コンクールで1位になって仕事をもらった、とか。

おまけに、そんなできる人が、
 「私なんて、勉強不足です」などと、謙遜でしめる。

ああ、あなたのような方が「まだまだ」なら
私のことは一体どう表現したらよいのだろうか。
翻訳を仕事にするなんて、一生無理なのではないかと悲観してしまう。

かといって、「全然勉強なんてしていなくて、偶然そうなってしまった」という記事も
身近に感じられない。

例えば、配給会社に翻訳がしたいと電話したら、
明日から来いと言われて、
たまたま有名な翻訳家の元、アルバイトで働くことになったとか、
映画の配給会社に入社したら、たまたま字幕制作室付きになったとか。

第一線で活躍する人が駆け出しだったころと
今では環境が違いすぎる。
他人のケースは、あくまでも単なる「参考」でしかない。

私は、雑誌の記事なるような、きらびやかな要素を持ち合わせていない。
でも、きっとどこかに、自分だけの(おそらく地味な)方法があるはずだと
信じている。

2013年7月13日土曜日

最初の仕事

修了生向けのトライアルに合格して、OJT(模擬発注)が終わり、
学校に付属しているエージェントに登録されることになった。
その後、声が掛かるのを待っていた。

「最初の仕事」って、みんなどうやって掴んだのかな。
私はどうしたらいいのかな。

もやもやしながら、クラウドソーシングのウェブサイトで
翻訳をしたり、応募したりした。
学校付属のエージェントからは音沙汰がないまま、
むなしく1か月以上が過ぎた。

そんな頃、基礎クラスで一緒だった方と食事をした。
彼女は期を開けずに受講し、トライアルも一発で合格し
今はフリーで仕事をしている。

私は、仕事が来ない、もう来ない気がすると言った。
彼女は、最初の依頼が来ないことはないはず、大丈夫、と励ましてくれた。
でも、もし3か月待っても何もなかったら
連絡してみてはどうか、とアドバイスをくれた。

気が楽になった。 
そうだ、3か月たったら考えよう。
気長に待つことにした。
前向きな気持ちになれた。その3日後のこと。

いつものように、会社から家に帰ると
7時ごろ、携帯電話にエージェントからの不在着信。
折り返すと、仕事の依頼だった。
尺は6分。ショートムビー。

ほされていた訳ではなかったんだ。
うれしかった。

納期は、私の誕生日の1日前だった。

映像翻訳と出会ったきっかけは、2009年の7月の誕生日。
あの日から、最初の仕事をもらうまで4年かかった。
長かったな。
やっとスタートラインに立てた気がする。

2013年7月7日日曜日

コピーのコンペ

クラウドソーシングサイトでつながったアミターブさん(仮名)から
ぼちぼち翻訳の依頼がくる。

最初の2件は、FX関連の案件だった。
次の依頼までに、せめて本を読んでおこうと、図書館で本を借り、数冊読んだ。
よし、FX、どっからでも来いーや、と思っていたら、
靴の広告の翻訳依頼が来た。

山歩き用のトレッキングシューズ。
アメリカのブランドだった。
富士山が世界遺産登録だとか、
山ガール、だとか何とか、登山が流行っているけれど
私にとっては、圏外の分野。

でも、「やります」と答えた。

パワポだのイメージビデオだのいろいろ資料が送られてきた。
ブランドのイメージと雰囲気をコピーに反映させてほしい、とのこと。
英語独特の表現については、
自国の文化で馴染みの良い言葉に差し替えるなどして
忠実さより、雰囲気を重視するのがリクエストだった。

270ワードだから、あと7時間以内に納品よろしくネ、とある。

日中は会社勤めをしているので、夜しか作業時間がない。
実質的に使えるのは3時間程度だった。

ギリギリできるかなと甘く見ていたが、
蓋を開けてみて「だめだこりゃ」と、思った。

「ここは韻を踏んでるから、日本語でも言葉遊びしてね」
「ダブルミーニングだから、日本語でもそんな言葉がいいな」
「これは、こんな機能なんだけど、なんかいいネーミングがあったらつけて」
など、ハードルの高いリクエストが備考欄に色々書いてある。

広告のクリエイティブに使われるコピーは
単に日本語で読みやすければよいものではない。
厳密な文字数制限はないとはいえ、キャッチコピーとなる言葉は
それなりに、コンパクトにしなければいけない。
すっきり言い放ちインパクトを出したいものだ。

納期を伸ばしてくれなんて、言っちゃいけないだろうけれど
「あと1日ください」と懇願したら、すんなり「I understand :) 」と承諾してくれた。

どうやら、これは、コンペらしい。
「トップになれば、他にも依頼が来るプロジェクトだから、品質第一だよ。
がんばってね」と、アミターブさん。

韻は踏めなかったけど、それなりにコンパクトにおさめて
歯切れよくしたつもり。
言葉を足して、踏み込んでみたり、
「思い切って、こうしてしまえ」と、冒険をしてみたり。
広告のコピーの翻訳は楽しい。

面白いコピーはないだろうか。
それ以来、電車に乗れば中吊りが気になり、
駅のポスターに目がいく。