2012年2月10日金曜日

10年越しの約束

最初に翻訳の学校に行った時、生徒は私だけだった。
先生は元NHKの記者で、定年後、翻訳を教えていた。

その学校では、東京のとある有名な先生の講義が教材だった。
地方都市では、通信教育とスクーリングの組み合わせで
別の人が教える仕組みになっていた。
私は、名古屋に居た。

課題は、イギリスのノンフィクション。
ある日、映画のタイトルが文面に出てきた。
古い映画だったので、母に聞いてみると
そういえば、この前、NHKで観たかも、タイトルは忘れたと言った。
私は、ここ数週間の新聞を漁り、映画欄を探した。

これかなというタイトルの映画を見つけ、放送局に問い合わせた。
何日の放送の、この映画のタイトルは、これこれですか?と。
電話にでた方は、少々お待ちくださいと言って、
すぐに確認し、快く答えてくれた。

今、思うと、何と恥ずかしい。。。
そういえば、あの映画 、なんてタイトルだっただろうか。

私は、きちんと邦題のタイトルを調べたのに、
教材の訳例は、東京の先生が勝手に訳したタイトルのままだった。

私を教えてくださっていた先生は、
よく調べましたね、と褒めてくださった。

そして、なぜか、真面目に取り組んだご褒美といって、お食事に誘われ、
全日空ホテルでイタリア料理のフルコースをごちそうになってしまった。

お会計で私も出しますと言ったが、断られた。
私は素直に甘えることにした。

そして、先生は
「あなたが翻訳で稼ぐようになったら、次はあなたがごちそうする番ですよ」
と笑っておっしゃった。
はい、と私は返事をし、財布をバッグにしまった。
「でも、あまり待たせないでくださいよ。5年も10年も、僕は待っていませんからね」

あの頃、私はお酒も飲めない23歳だったな。

もう10年経ってしまった。


早く約束を果たしたい。
まだ、間に合うかな。

0 件のコメント: