私は学校やその付属のエージェントの基準しか知らない。
制作会社で字幕原稿をチェックする際、戸惑うことがあった。
中でも一番びっくりしたのは、
「誤字脱字以外はチェックしなくてよい」と
引き継ぎの際、言われたことである。
翻訳者にチェックバックを送ろうとまとめたコメントで
二通りに読める字幕や
つながりが分かりにくい個所、
日本語の造語の不自然さを指摘しても、
「まあ、意味が分かればOK」と前任者にカットされた。
「それに、考えれば分かる」と言う。
考えさせるような字幕は最低である。
一瞬思考が止まれば、読み切れないし
次の字幕も飛んでしまう。
「翻訳者に嫌われたくない」
前任者の理由はこれだった。
細かい指摘をすると嫌がられるかもしれない。
高いレートでもないのに短納期でやってもらっている。逃げられたら困る。
また、細かいところまでつめていく時間がないといったものだった。
自分の間違いや足りなかった部分を指摘されたからといって
会社を「嫌う」翻訳者がどこにいるだろう。
そんな人はプロとして、個人事業主としてやっていけるわけがない。
翻訳者の意図は大切にしたい。
そこを塗り替えようとは思わない。
翻訳者は、その作品を一番理解している人なのだから。
チェックする基準は、その字幕で意図が伝わるか否かだと思っている。
前任者が辞め、チェックのチェックをされることもなり
ここは直した方がいいと思う個所は心おきなく指摘している。
大先輩に向かって物申すのは生意気かもしれないが、
原稿がすべてであり、そこに上も下もない。
制作会社が翻訳者に対して弱腰になり、
やっつけ仕事でDVDが製品化され、
店頭に並ぶなんて納得できない。
良い作品にしたいという思いは、翻訳者もディレクターも同じ。
意見を対等に言い合えて、気持ちよく仕事ができる関係を目指したい。