映像翻訳者を志望する人は、
映画やドラマが好きな人が多い。
「好きだから」、字幕翻訳の仕事がしたい。
「好きだから」、頑張れる。
でも、「ただ好きなだけじゃダメ」。
ここで言う「ただ好き」な状態って、一体何だろう。
「自分の好みの映画/ドラマを見るのが好き」かなと思う。
もちろん、好きを追求したり、専門を持つのは大事。
でも、制作会社で字幕のチェックと制作進行管理をしていて、
日々思うのは、アレルギーをなくすことも
また重要だということ。
売れっ子のフリーランスなら選り好みして
断ることもできるかもしれないが、
仕事となれば、作品は選べないのだから。
新年最初の仕事は
血生臭い映画のスポッティングだった。
レンタル版ではカットされた残虐な描写が
セル版用に挿入されたので
再度スポッティングをすることになった。
レンタル版でも、血みどろなのに、
首が飛んだり、頭が二つに割れたり、
腹にぐさっと刃物を刺すと、ぱっくり割れて、
にょろっと内臓が出るような
グロテクスなシーンが追加されて、
セル版はさらにパワーアップ。
絶対、観たいと思わないし、
人にも勧めにくい映画である。
できれば凝視したくないシーンを
フレームのコマ送りで
字幕を出すタイミングを調整する。
ぐちょっという血の音が、
セリフのIN点を隠すかのようになっていると、
何度もスローで再生して、音を探す。
勘弁してくれ、と思った。
お昼ごはんは、食べた気がしなかった。
ふと、先人たちの「ただ好きなだけじゃダメ」って
こういうことを言ってたのかなと思った。
好き嫌いを言わないこと。
趣味と仕事の境目は、そこにあるのだろう。